2001年6月29日2時17分
< 回想録・第五話  バンドに歴史有り その2 >

 1994年は俺にとってとても印象深い年だった。それまでは全くと言っていいほど縁のなかった「野田」という場所に年がら年中通うようになり、たくさんのミュージシャンと知り合い、「花祭り」「月祭り」「七夕祭り」「ホワイト餃子」「やよい食堂」「ジャスコのビアガーデン」などを満喫(?)した。そして、その頃作られた曲達が詰め込まれたテープ「CIAO 3」は、今でもあの頃の風を俺に運んで来てくれる。

『Dear Friend』
 四人で活動し始めた後に作られた曲(つまり我々にとって本当の意味でのこのバンドのオリジナル)を収めた初のデモテープだった「CIAO 3」のオープニング・ナンバーは、この曲。アコースティック・ギターとタンバリンとヴォーカル・ハーモニーだけで出来ているシンプルなアレンジ。改めて聴き直すと、不思議に湿った感じのあるサウンドだ。

 当時、俺は某アーティストのバックの仕事をしていたが、その現場の音はかなり複雑なサウンドで、正直言って覚える事が多すぎてしんどかった。その翌日にこの曲を練習するために野田に行き、この曲に心底癒された記憶がある。

 また、この曲は別の意味で我々に新たな境地をもたらした。ライブの中で場面を変える工夫として始めた「豪宙太&ズッキーニ」ショーは、この曲のおかげで思いついたのだ。この路線は後に様々に形を変えながら受け継がれ、お客さんに何が何でも「元を取らせる」パフォーマンスと、単なるロックバンドの枠を越えたサウンド作りに発展していったのだ。

『ハモってばかりの街角で』
 俺がこのバンドに初めて持っていった曲の中のひとつ。この曲には俺の二つのテーマが込められていた。その一つはタイトルにもなっている「ハモり」。スタジオで練習するたびに我ながら聴き惚れていた四人のハモりの限界を追求してみたかったのだ。メロディを誰かが歌い、それに誰かがハモりをつける、というのではなく、最初からハモるために作られたような曲が欲しかったのだ。

 また、音楽性や人生観、歌い方そのものなども四人はてんでバラバラであり、結構頑固で好き勝手にやりたい癖に他人との「調和」の極地である「ハモり」に幸せを感じる不思議さを歌詞のテーマに取り上げてみた。思えばこの頃は俺も随分たくさん詞を書いていた。

 もう一つのテーマ、それは「ヴォーカリスト・豪宙太」だった。俺はどうしてもこの曲を彼に歌ってもらいたかった。本人はあんまり嬉しそうではなかったが。彼は自分を「歌を歌うために生まれてきてはいない人間」と考えているようで、本人がそう思っている以上そうなのだろうが、彼の「声質」は本当に魅力的だ。そのトーンは常に聴く者に情景を思い起こさせる。この曲が彼に合っていたのかは分からないし、ちょっとやり過ぎなコーラスアレンジはライブでは再現不可能になってしまったが、この頃の俺はとにかく何でもやってみたかったのだ。

『みんな何処へ...』
 「全員が歌うグループ」を最も分かりやすく表現するために、ワンコーラスごとに歌手が変わる、という企画の元に生まれた曲。結構恥ずかしいと言えば恥ずかしいが、それを楽しみながらやっていた。この頃サポートでベースを弾いてくれていた岩ちゃんは、「俺はなんちゅう恥ずかしいバンドを手伝っているんだろう...」とぼやいていた。

 歌詞的には、様々な出逢いや別れの中で過ぎていく時間、という普遍的なテーマに沿って書かれている。4コーラス目で豪君が歌っている『忘れ物を取りに帰る事もしないでいたあの日々を悔やんでいる今の俺』という一節が、とても哀愁があって良い。チャオとしては、「POWER TO THE PEOPLE」(by ジョン・レノン)のようなイメージで作ったらしいが、俺からすると、俺の大好きな甲斐バンドの「ブラッディーマリー」を彷彿させる仕上がりだと思う。

『愛ある暮らし』
 マーマーバンドに加入する以前の俺は、常に自分のパーマネントなバンドではリードヴォーカルだったので、バンドの曲のほぼ全てを自分で作詞していた。たいていのバンドではヴォーカルが作詞を担当する。他のメンバーは歌詞を書かない、書けない、または興味がない、という場合が多い。というわけで、オリジナル曲を作ろうとした場合に「必要に迫られて」作詞をする、というのがほとんどだった。で、俺はいわゆる「ラブソング」という詞を書くのが非常に苦手だった。なぜなら、周りを見回せば誰もがテーマに取り上げているジャンルで、その中において何らかの「自分性」を出すのが至難の業に思えたからだ。何でみんな同じような詞を書いていて、しかもそれが売れているのか、俺にはさっぱり分からなかった。

 ところで、このバンドはみんなが詞に対して非常にうるさい。ただ単に、曲を成立させる為に必要なだけだから、と適当な詞を作ってもすぐさま却下されそうな勢いだ。しかし、どういうわけか、誰もストレートなラブソングを作ろうとしない。じゃあ、「隙間狙い」で俺が挑戦してみるか、という感じで作ったのがこの曲だ。

 最近「話を聞かない男、地図を読めない女」とかいう本が売れていて、男女の相違がクローズアップされてきているが、何しろ俺は女心が分からない。しかし、女の人にウケる男性像を想像するのは好きだ。もちろん、俺が勝手に想像しているだけだから、そのイメージが本当に女性受けするかどうかは全く定かではないが。で、この曲から始まった俺のラブソングシリーズは、そんな女性受けする男性(と俺が勝手に思っている)のキャラを念頭に置いて書かれている。しかし、当然ながら、全然的はずれである可能性もある。

 サウンド的には、80年代っぽいエセな爽やかさとビートルズっぽさが妙にミックスされた、まあ、オリジナリティがあると言えばある、そんな感じだ。

『告白』
 この「CIAO3」の中では唯一、4人で始める前に作られた、ゆたちゃんのオリジナル・ナンバー。現在の我々からは想像もつかないほどに80年代的に洗練されたリズムとコードの響きを持った作品で、テーマは「道は見えない」の延長上にある。この曲に限らず、我々の作品には「男が思わず本音を吐露する」系の歌詞が多いが、歌う人のキャラクターによって許される切り口とそうでない物があるような気がする。多分、俺がこの曲を歌っても、ちっとも説得力がないのでは...。というワケで、俺は「ヘナチョコ男」路線で行くことにしたの
であった。

 


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