2001年6月6日16時52分
< 回想録・第四話  バンドに歴史有り その1 >

 俺がマーマーバンドに入る事が決まった1994年1月当時、俺は異様にテンションが高かった。他の三人に向かって「とにかくジャンジャン曲を作って、ガンガン録音して、それをライブの度に発売しよう!」と提案したのを覚えている。全員、気合いも入っていて、多分2〜3日に一度は常に顔を合わせて練習や録音をしていたと思う。最初の一年と数ヶ月で40曲ほどのレパートリーを一気に作った。それらはデモテープシリーズ「CIAO 1〜9」に収められた。
 その第一弾「CIAO 1」と、続く「CIAO 2」は四人で一緒にやり始める前に作られた曲達を録音した物だ。今、聴き返すとかなり雰囲気にばらつきがあるが(まあ、当たり前だが)、当時の気持ちが蘇ってくる大事な作品達だ。

『どしゃぶり』
 俺が参加する直前に、チャオの作品をオリジナルメンバーのゆたちゃんが中心になってアレンジした物。今、聴くとそれほどでもないが、パートごとにどんどん変わっていくコーラスアレンジが当時の俺にとって衝撃的で、しかも俺以外の三人でのハモりが既にかなり完成された物だったので、「どうやって効果的に食い込んだらいいのだろう?」と、楽しい試行錯誤をした記憶がある。

『Battle Game』
 チャオと豪君が二人で始めたフォークデュオ「プノンペン合唱隊」のレパートリーをゆたちゃんがアップテンポにリアレンジした物。曲の最初に出てくるア・カペラの部分は、録音時は三声だったが、ライブの時には四声に増やし、一曲目にガツンとハモりを聴かせる事が多かった。特に出来が良かった時などは、自分でもステージ上で鳥肌が立ってしまうくらい気持ちが良かった事もあった。観に来てくれた友人に「あの最初の所のア・カペラはテープか何かを流しているの?」訊かれた時は、「よし、このバンドはイケる!」と確信したっけ...。

『道は見えない』
 ゆたちゃんがチャオ達と知り合う前に一人で多重録音をして作った曲。それをほぼ再現する形で四人で録音した。この曲のデモを聴いて、豪君とチャオはゆたちゃんと一緒にやる気になったらしい。八小節単位で延々と繰り返されるコード進行で出来ているシンプルな曲だが、その赤裸々な歌詞と一度で覚えてしまうサビのメロディと、劇的なギターによるエンディングで人気を博し、ライブのラストを飾る事が多かった。マーマーバンドにとっても、まあいわゆる「代表曲」の一つであった事は間違いない。

 この曲は「CIAO 1」のラストに入っているが、一旦曲がフェードアウトしたあとで、オマケみたいな感じで四人のコーラスとアコースティック・ギターとタンバリンだけでもう一度サビが繰り返されるようになっている。とsころが、このオマケ部分が異様に好評で、全部こういうサウンドにすれば良いのに、という声が多く聞かれた。しかし、当時の我々はロックバンドをやっているつもりだったので、「いくらなんでもそりゃないだろう」と思っていた。今となっては、ある意味、非常に的を得た意見だったと思う。

『凧の唄』
 これも「プノンペン合唱隊」のレパートリーをゆたちゃんが中心になってアレンジした物。当時の作品の中では最も完成度が高い部類に入ると思う。チャオの作るフォーク色の強い作品を、ゆたちゃんのちょっとフュージョンっぽい透明感のあるギターサウンドで彩る、というパターンの代表作だ。多分、この辺りの曲は、俺がいてもいなくても大差ない仕上がりだったと思う。だが、この曲の最初の部分の「黄色い帽子の群れ」と「昨日から終わらない身体」という歌詞が俺はたまらなく好きだった。一瞬、意味を考えさせられたあとで風景がばーっと広がるような言葉の選び方をする「詩人」としてのチャオを認めた曲だった。

『東京 Japanese Boy』
 これは、かつて俺とゆたちゃんがやっていたグループ「Pierce」のレパートリーの一つ。明らかに曲の雰囲気が他と違いすぎて(だいたい、タイトルのセンスひとつとっても違和感がある)今となっては笑ってしまうが、当時はバンドの方向性などを一切決め打ちしていなかったので、取りあえずやってみた感じだ。曲の途中の部分でチャオや豪君がソロで歌う部分があるが、いまひとつ座りがよくない。ギターのコードの響きなどは結構高級感があって悪くないが、それまでやってきた俺のメロディー作りの流儀を、そのままこのバンドに持ち込んでもうまくいかないんだな、という事が分かった作品。持ち曲が少なかった初期はライブでもやっていたが、多分二年目以降はほとんど取り上げられたことはないと思う。

『She's No Angel』
 これもまた違った意味で異色の作品で、かつてチャオと豪君が中心になって活動していた「ジプシーズ・ワイルド」というハードロックバンドのレパートリーを大幅にコーラスパートを増やす形でリアレンジした物。妙に横文字がフューチャーされた攻撃的な歌詞に違和感があるが、なんと言っても、目黒界隈のライブハウスで長髪を振り乱しながらブイブイ言わせていた当時の曲なのだから仕方がない。ただ、今聴いても、コーラスパートはとってもかっちょいい。ヘビメタと、妙にフォークっぽいコード進行と、ビートルズの「ヘルタースケルター」がごちゃまぜになっている感じが面白いと言えば面白い。あと、なぜかこの曲のギターソロは俺が弾いている。

『灰色の60cm』
 これも前出の「Pierce」のレパートリーだが、もともとフォークっぽい曲だったのと、豪君が気に入ってくれたおかげでだいぶバンドとして消化できたと思う。この曲の前半部分は、俺のリードヴォーカルにチャオがハモる、という、他ではあまりないパターンで出来ている。ただ、まだまだメンバーそれぞれの得手不得手が把握できていなかったので(それぞれが自分自身でも)、結構無理のあるコーラスアレンジが施されていたりする。

 また、この曲はもともとはタイトルが「道端」だったが、リズムアレンジをシンプルに変えて、ファーストアルバム「CIAO」に収められる事になった時にこのタイトルに変更された。個人的には、自分が作ったメロディーの割には妙に歌うのが難しくて、困ってしまう曲のひとつである。

次回に続く。

 


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